裁量トレードか、それともシステムトレードか。

裁量トレードとシステムトレードは、相反する概念だと一般には解釈されているように思われる。

一般的なイメージは次の通りだろうか。

・裁量=経験や勘にもとづいて、人間がトレード

・システム=プログラムによって、コンピュータが自動売買

しかし、これは一面的な見方であり、誤解も含まれている。この説明をするには、まず「システム」とは何ぞや?を理解しよう。

多くの人は、システムと聞くとすぐにコンピュータを思い浮かべるようだ。でも、本質的にはシステムとコンピュータとは直接関係がない。「システム」を辞書でひいてみると、次のように書いてある。

大辞泉

システム【system】
1 制度。組織。体系。系統。
2 方法。方式。「入会の―を説明する」
3 コンピューターを使った情報処理機構。また、その装置。

大辞林

システム 【system】
[1] 個々の要素が有機的に組み合わされた、まとまりをもつ全体。体系。系。

会社の― 
入会には会員の紹介を必要とする―になっている
 
[2] ある作業をコンピューターで行なっている場合に中核となっている部分をさす語。ハードウエアとソフトウエアの全体をさす場合、オペレーティング-システムをさす場合、個別のアプリケーション-ソフトのプログラムをさす場合など、場合によって異なる。

これを見れば分かると思うが、あくまでも「コンピュータシステム」というのは第一義ではないということだ。単にあるシステムを実現する装置としてたまたま相性が良かったのが、現代のコンピュータなのだ。

上記の辞書による「システム」の説明でもまだ理解できなければ、「システム=しくみ、やり方」と考えてもらっても良い。

たとえば、あなたが中華屋に行くとする。

1:店員Aが注文を取りに来る。
2:あなたはラーメンを注文する。
3:店員Aが厨房の店員Bに注文を伝達する。
4:店員Bが調理する。
5:店員Bが完成した旨を店員Aに伝える。
6:店員Aがあなたにラーメンを運ぶ。

この一連の流れだって立派なシステムである。
その都度いちいち手順や流れを考えることなく、一通り仕組みとして決まっている。これが「システム化された状態」だ。

たとえば誰が注文を取りに行って、誰が調理するか決まっている。この時点で一つのルール(≒システムを構成する一要素)が出来ている。店員のその時の気分によって役割が入れ替わったり、役割を果たさなかったりすると、そのシステムには欠陥が存在すると言える可能性がある。飲食業においてこのシステム化を徹底的に推進したのが、ご存知マクドナルドだ。設備と人間の行動をモジュール化・システム化している。

FXにおけるシステムも同じだ。

いつ、どういう状況で、どんなタイミングで、どのようにエントリーするのか。あるいはどのように決済するのか。そういう基準やルールをつくり、実行する一連の流れ。簡単に言えば、「決まったやり方」。これがシステムである。

このように、決してコンピュータで売買することがシステムトレードなのではない。上述のように、ある仕組みにもとづいた売買がシステムトレードである。そのシステムトレードを自動化するのに役立つのがコンピュータ・プログラムというわけだ。

したがって、裁量=人間、システム=コンピュータ、という分け方が間違っているのはもうお分かりだろう。人間が(手動で)システムトレードをやってもいいわけだ。というか、そうすべきである。

自分で構築したあるシステム(トレードのルールと言い換えても良い)に則り、淡々と実行。その結果を記録し、統計的に有利なシステムを使い続ける。実はそれこそがFXの「必勝法」であり、非常に単純なことなのである。

ところが負けている多くの人は、そうした自分なりのシステムを構築せず、行き当たりばったりでトレードしている。記録すらつけない。当たるも八卦、当たらぬも八卦の占いに頼っているようなもので、これでは勝てるようになるわけがない。

FXはゼロサムゲームなので、世界中のトレーダーの成績の平均値を取ると、限りなく「PF=1」に近づく。PFとはプロフィットファクターのことだ。厳密にはスプレッドの関係で完全なゼロサムではないけれど、とにかく誰かが勝つには必ず誰かが負けるしかないゲームなので、PFの平均値は1である。だから自分のトレードの記録をつけて自分のPFを知り、平均値を上回っているかどうかをチェックしなければ長期的には必ず負けるのである。あるいは負けないとしても、適当にやってるだけでも長期的にはPF=1に収斂する。PF=1というのはすなわちプラマイゼロと同義であり、FXをやってた時間だけ損したということになる。何年もFXに費やして結局トントンで終わるのなら、最初からやらないほうが時間の無駄を防げるだろう。(この事実は、最近読んだ『使える売買システム判別法』という本で知った。詳しく知りたい方は同書を参照されたし)

というわけで、「パソコンに疎いからシステムトレードは出来ない」と言っているのは単なる勘違いであり、考えを改めるべき。
また、「俺は勘が鋭いから裁量で頑張る」というのもちょっと的外れな勘違いであり、これまた考えを改めたほうがいい。
トレードには、上記の両方の要素が必要だ。

僕が推奨するのは、自分なりの「裁量システム」を構築し、プログラムに頼らずに手動でシステムを稼動させることだ。手動と言っても、もちろん成り行きオンリーにしろという意味ではなく指値など使うべきだが。

なぜプログラムに頼るべきでないと言うのか。それは、プログラムでは「空気」や「雰囲気」までアルゴリズム化して事前にコードを組むのは非常に難しいからである。長くチャートを見ていると、だんだん相場の空気が読めてくることがある。前述したが、いわゆる「勘」というヤツである。相場の空気によっては荒れ狂いそうなときと、穏やかそうなときがある。荒れているときはいつものテクニカルが効かなかったり、穏やかなときはテクニカル通りに決まったり。そういう状況を臨機応変に感じて、自分のシステムを微調整できるのが「裁量システム」の長所。しかしこれをコンピュータにやらせようとすると、かなり難しいと思う。

だから、自分の確固たるシステムを自分で随時微調整できるやり方を僕は薦める。ただし注意してほしいのが、この微調整というヤツ。これがクセモノで、微調整し過ぎるとそもそものシステムを壊すことになる。なんのためのシステム(ルール)なのか、と。この辺は言語化して説明するのが非常に難しいので、みなさんも直に体験して感じてみてほしい。

とりあえず最初のうちは、微調整や例外を許さず、自分が決めたある仕組み・ルールに則って厳正にシステムを運用したほうが良いだろう。そしてその記録を詳細につけていけば、自分のシステムにどんな微調整を施せばいいのかが見えてくる。

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